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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2768号 判決 1977年5月27日

原告 仲菅治

原告 仲フミ子

右両名訴訟代理人弁護士 井上恵文

同 大嶋芳樹

被告 国

右代表者法務大臣 福田一

右指定代理人検事 渡辺等

<ほか二名>

主文

被告は、原告両名に対し、それぞれ金一一三五万七七二三円及び右各金員に対する昭和四六年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  主文同旨の判決

2  仮執行宣言

二  被告

1  「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

2  予備的に担保を条件とする執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  死亡事故の発生

(一) 亡仲務俊(以下単に仲という)は昭和四四年三月高校を卒業し、同月二五日海上自衛隊に入隊し、同四六年四月二〇日以降大分県佐伯市所在の海上自衛隊佐伯基地分遣隊に配属され、後記死亡当時海士長であったが、上司訴外嶺田辰生二等海尉の命令により、同年一一月一日午前八時三〇分ころから、同分遣隊調理室において、訴外油布治喜二等海曹(以下油布という)の指揮命令下、同僚訴外上杉定博一等海士(以下上杉という)らとともに六名で炊事作業に従事していた。

上杉は、油布に命ぜられ、同室西側の流し台で包丁(刃体の長さ約二四センチメートル)を研ぎ始め、既にその場で食器洗いをしていた仲の使用していた水道水のしぶきが上杉にかかったのに、仲は水道水の勢いを弱めようとしなかったので、上杉は、これを不愉快に思ったが、水しぶきを避けるために、東側の流し台に移動して包丁を研ぎ続けた。そして、上杉がこれを研ぎ終えてその場に立っていたところ、仲は東西の流し台の中間にあった調理台で、オリーブびんのせんを抜きこれを東側流し台の傍らにあったくず箱に向って投げたところ、そのせんが上杉の足元に転がったので、同人は仲がせんを投げたことに立腹し、これをけ飛ばそうとしたが空振りに終り、憤まんやるかたない気持をいだきながら、担当のきゅうり切り等の調理作業を始めるべく、研ぎ終った包丁を持って調理台に向って歩き始めた。

(二) そのとき、仲は上杉が前記せんをけ飛ばそうとした態度を注意すべく、同人に「ちょっと来い」と呼んだところ、同人は憤激して「なにか」と言いながら仲とほとんど身体を接する程に接近して来たので、仲は両手を上げ、両ひじを上杉の胸に当てて押し戻そうとしたところ、上杉は仲を押し返した。そこで仲は上杉に対し「われちょっと外に出れ」と言ったところ、上杉はそれまで高ぶっていた仲に対する憤まんの情を押え切れなくなり、極度に激高して「わりゃー」と叫びながら、右手に持っていた包丁で仲の左下腹部を一回突き刺し、同人に対し左外腸骨動脈を完全に切断する刺創を負わせ、よって、同日午前九時〇五分ころ、同人を失血死させるに至らしめた。

2  被告の責任事由

(一) 被告は、仲の使用者として、油布らをして、仲の公務遂行の場である前記調理室において、同人が同僚隊員からの暴行を受けることのないように、職場の秩序を保ち、隊員を教育指導するなどして、仲の生命身体を保護させるべき債務があるのに、これを怠り、前記のとおり、同人を事故死させたのであるから、被告は仲に対し、これによって被った損害を賠償すべき責任がある。

(二) 上杉のなした暴行が職務の執行そのものでないことはもとよりであるが、前記上杉の殺傷は仲との調理作業の方法ないし態度に関する紛争を契機とし、時間的場所的にも上杉の職務である炊事作業と密接な関連があるので、右加害行為は上杉の右職務を行うについてなしたものというべく、しかも右炊事作業は海上自衛隊員としての公権力の行使として行なわれたものであるから、被告は、国家賠償法一条一項又は民法七一五条一項により、仲の死亡による損害を賠償しなければならない。

(三) 油布は、同様公権力の行使として前記炊事作業の指揮監督に当っていたものであり、当時隊内にはけんか等の発生しやすいふん囲気があったので、調理室の秩序を保持し、調理室内の隊員間の異常に気付き、隊員間の異常が発生すれば、直ちに事故防止のため適当な措置を取るべき注意義務があるのに、これを怠り、上杉の前記加害行為を制止することなくこれを完遂せしめた過失があるから、被告は、国家賠償法一条一項又は民法七一五条一項によって、仲の死亡による損害を賠償すべきである。

3  損害

(一) 債務不履行に基づく損害

(1) 逸失利益

仲は、昭和二六年三月一〇日生れで、本件事故当時二〇歳であり、昭和四七年三月二四日自衛隊における三年の任期が満了する予定であったので、本件事故がなければ、その後六七歳まで四六年間稼働し、少なくとも一般男子労働者の平均賃金に相当する収入を得ることができたものと考えられるので、これによる収益相当額の損害を被ったものといわねばならない。

そこで、昭和四七年度賃金センサス第一巻第二表(産業計規模計男子労働者の平均給与額)によってこの逸失利益を算出すれば、次のとおりとなる。

(イ) 現金給与額  月額金八万八三〇〇円

年間賞与その他特別給付額  年額金二八万八七〇〇円

年額合計金一三四万八三〇〇円

(ロ) 仲は本件事故当時独身であったのでその生活費として、右収入の五〇パーセントを控除する。

(ハ) そして、ホフマン式計算方法により、年五分の割合で中間利息を控除して、現価を計算すると

134万8,300円×23,534(ホフマン係数)×1/2=1,586万5,446円。金一五八六万五四四六円(円未満切捨て)

となる。

(2) 仲の慰藉料    金六〇〇万円

(二) 不法行為による損害

(1) 逸失利益

前同額

(2) 原告ら個有の慰藉料  各金三〇〇万円

仲は、原告ら夫婦の五男であるが、原告らは、成人した仲を本件事故によって失ったことによって甚大な精神的苦痛を被った。

(三) 原告らの相続

原告らは、仲の父母として、同人の死亡により、法定相続分である二分の一の割合で前記仲の権利をそれぞれ承継した。

(四) 弁済

原告らは、上杉の父から慰藉料金一一五万円の支払を受けたのでこれを控除する。

(五) 弁護士費用

本件損害としての弁護士費用は、原告ら各金一〇〇万円が相当である。

4  結論

よって、原告らは、それぞれ被告に対し、右合計損害金一一三五万七七二三円及びこれに対する前記事故発生の日である昭和四六年一一月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)の事実は認める。同(二)のうち、仲が上杉に「ちょっと来い」「われちょっと外に出れ」といったこと、上杉が仲に接近し、仲が両ひじで上杉の胸部を押したこと、両者が押し合の格好になり、上杉が激高して、所携の包丁で仲の下腹部を一回突き刺し、同人に対し原告ら主張の刺創を負わせ、九時〇五分ころ同人を死亡させたことは、認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の(一)について、被告が仲に対し、抽象的には安全保護義務を負っていたことは認めるが、具体的に右義務を怠ったとの点は否認する。

同(二)のうち、本件殺傷行為が上杉の職務である炊事作業と密接な関連があって右職務の執行についてなされたものなることおよび右炊事作業が公権力の行使に当るとの点は否認する。本件殺傷行為は、上杉の仲に対する私的えん恨に基づくもので、客観的、外形的かつ実質的にも職務である炊事作業の遂行とは無関係であるので、被告に本件損害賠償の責任はない。

同(三)の事実はすべて否認する。仲が従事していた炊事作業は通常第三者から危害を受けるような業種ではなく、本件のような加害を予測しうるものではない。また本件加害は短期間に行なわれたものであって、油布がこれを制止しうる余地はない。佐伯基地分遣隊は当時隊員二九名の小部隊であり、集団的にも個人的にも充分指導を行ない、勤務中調理室内で隊員間のけんか闘争が行なわれ易い状態でもなく、上杉は二四歳、仲は二〇歳いずれも自己の判断で行動を統制しうる年令であるので、油布に隊員の行動を監視すべき注意義務もなく過失はない。

3  請求原因3のうち、仲が昭和二六年三月一〇日生れで事故当時二〇歳であったこと、原告らが仲の父母でその相続人であることおよび(四)の事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

三  抗弁

1  仮に被告に責任があるとしても、前記佐伯基地分遣隊長訴外内山久遠は、昭和四六年一一月一日原告らに対し、本件殺傷事故が仲の同僚の自衛官である上杉によって炊事作業中調理室内で行なわれたこと等本件事故の経緯を知らせたので、原告らは、本件加害者を知っていたものというべく、したがって、同日から三年が経過したことにより、原告ら主張の不法行為による損害賠償請求権は時効により消滅した。

2  本件殺傷行為の主たる原因は、仲が上杉をちょう発したことにあり、本件事故発生について仲に過失があるというべきであるから、本件損害賠償の算定にあたってこれがしん酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告らが本件事故当日被告主張の分遣隊長からその主張のような事故の経緯を知らされたことは認めるが、原告らがこれによって本件加害者を知ったものとはいえない。原告らは、昭和五〇年本件原告ら訴訟代理人から告知されるまでは、被告が本件加害者であることを知らなかったものであり、したがって、それまでは消滅時効は進行しない。

2  抗弁2のうち、仲に態度や言葉使いの点に多少の落度があったことは認めるが、同人に過失があったとの点は否認する。

五  再抗弁

1  仮に、原告らが本件事故当日被告が本件加害者であることを知っていたとしても、原告らは昭和四九年一〇月二三日ころ、当時の防衛庁長官訴外山中貞則に対し、災害補償の請求をした際、本件損害賠償の催告をし、ついで昭和五〇年四月四日本訴を提起したので、消滅時効は中断した。

2  原告仲菅治は、海上自衛隊呉地方総監に対し公務災害補償の申立をしたが、同総監は、昭和四七年五月二五日公務外の災害であると誤った認定をしてこれを告知し、同原告は、防衛庁長官に対し審査申立をしたが、同長官は同四九年一二月二一日、本件災害が仲の業務離脱時におけるけんか闘争によるものである旨虚偽の事実を原告らに通知して審査申立を棄却する判定をした。このように被告の担当官は原告らに虚偽の事実を告知しておきながら、原告らが本訴を提起するや、既に債権が時効により消滅したとしてこれを援用することは信義誠実の原則に反し権利の濫用であり許されない。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1のうち、昭和四九年一〇月二六日、原告仲菅治から乙第一四号証の書面が防衛庁長官に届いたことは認めるが、その余の事実は否認する。右書面は、損害賠償の請求を内容とするものではない。

2  再抗弁2のうち、原告主張の者が原告らに対し虚偽の事実を告知したことおよび時効の援用が信義則違反ないし権利の濫用であるとの点は否認、その余の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  本件事件の発生

請求原因1の(一)の事実については当事者間に争いがない。同(二)のうち、仲が上杉に「ちょっと来い」「われちょっと外に出れ」といったこと、上杉が仲に接近し、仲が両ひじで上杉の胸を押し、両者が押し合う格好になり、上杉が激高して所携の包丁で仲の下腹部を一回突き刺し、同人に対し左外腸骨動脈を完全に切断する刺創を負わせ、九時過ぎ死亡させたことは当事者間に争いがなく、右事実と《証拠省略》とを総合すれば、上杉は、生来激し易く、いわゆるかっとなると何をするかわからないという性格で、かつて乱暴して会社を辞めたことがあるが、佐伯基地分遣隊には昭和四九年九月三〇日から勤務するようになり、仲より年長であったこと、一度外出時仲と自己のおごりで飲酒し、翌日仲から挨拶されなかったこともあり、不愉快に思い、同僚に仲は生意気だともらしていたこともあるが、殊更、けんかするということもなかったこと、しかるに請求原因1の(二)の経緯で本件殺傷事故を起すに至ったことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告の責任

前記認定の事実によれば、上杉の本件殺傷行為は同人の仲に対する感情的不満の爆発によるものと推認しうるが、その契機となったものは、仲が食器洗いしていた際、その水しぶきが包丁研ぎをしていた上杉にかかったことおよび仲の投げたびんのせんが上杉の近くに転がったことに対する不満であり、いずれも仲の炊事作業そのものに関するものであると同時に上杉の職務である包丁研ぎにかかわるものである。また本件犯行に供された包丁は、上杉が研摩を命ぜられこれを終えて調理に使用しようとしていたものであり、しかも本件犯行は調理室内において上杉の隊員としての炊事作業中に行われたこと等前記本件犯行の態様から判断すれば、上杉の本件殺傷による損害は同人の炊事作業と密接な関連のある行為によって生じたものであるから、本件損害は上杉の職務たる炊事作業の執行についてなされたものというべきである。

しかしながら、右炊事作業は、純然たる私経済作用に属するもので、公権力の行使とはいえないので、右事故による損害賠償について国家賠償法を適用することはできない。

そこで、被告は、民法七一五条一項により、上杉の使用者として、上杉がその職務たる炊事作業の執行について仲に加えた本件事故による損害を賠償すべき責任を負わねばならない。

三  消滅時効の成否

原告らが本件事故当日佐伯基地分遣隊長から仲が同僚の自衛隊員である上杉によって炊事作業中調理室内で本件殺傷行為を受けた経緯について知らせを受けたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、上杉の不法行為によるその使用者たる被告に対する損害賠償請求権について、原告らは同日加害者を知ったものということができるので、同日から三年の消滅時効が進行したものということができる。

他方、原告仲菅治が、呉地方総監に対し、仲の死亡事故について公務災害補償の申立をし、さらに防衛庁長官に対し、同総監の公務外の認定に対する不服審査の申立をしたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すれば、右長官に対する審査申立書は昭和四七年一一月一八日受理されたが、同審査手続は進ちょくしなかったため、同原告は昭和四九年六月右長官に対し、右申立に対するその後の経過を知らせるよう願い出たが、その後満足できる判定が出なかったため、昭和四九年一〇月二六日防衛庁長官到達の乙第一四号証の書面をもって、同長官に対し、死亡後足掛け四年目になるのに審査申立に対し故人を慰めるような連絡がなく、災害補償裁定委員会は、審査申立の件について、伸々に手続を終らせるのではないかとの不安を述べ、余り伸々になるのであれば、他の方法で世論に問い、また弁護士を代理人として裁定を仰ぎたく思っている旨申し向け、公正な裁定を願い出ていたことが認められ(同日右書面が右長官に到達したことは被告の自認するところである)、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。ちなみに、右審査申立に対する同長官の棄却判定は三年の時効期間経過後である同年一二月二一日になされたことは当事者間に争いがない。

右認定の事実によれば、右書面は裁定に関する長官宛の上申書であるが、その文面から仲の死亡による損害てん補を求める意思の表示であることは明らかであるので、原告らが右書面により本件損害賠償の催告をしたものと認めるに充分である。

そして、昭和五〇年四月四日本訴が提起されたことは明らかであり、被告主張の消滅時効はこれらの事由により中断したものというべきであるので、被告の時効消滅の主張は失当である。

四  過失相殺の成否

被告は、上杉の殺傷行為が仲のちょう発によるものとしてその過失を主張し、仲の態度や言葉使いに多少の落度があったことは原告らの認めるところであり、上杉が、仲の食器洗いの際の水しぶきが自己にかかったこと、仲の投げたびんのせんが自分の足元に転んだことを不満とし、さらに仲が上杉のせんをけとばそうとした態度をとがめようとして「ちょっと来い」と呼んだことに反感を持ち、「われちょっと外に出れ」といった言葉に逆上して本件犯行に及んだことは前記認定のとおりである。しかしながら、食器洗い中、後から来た上杉に多少水しぶきがかかったといって特に非難すべきものではなく、びんのせんはくず箱に向って投げられたのであって、上杉に向って投げられたのではないから、この点に関し仲を非難することは相当でない。そして、同僚隊員であれば、通常、箱の外に転がったせんを拾って箱の中に入れるくらいの行為があってもよいのに、かえって上杉はこれをけとばそうとしたのであるから、仲が同僚としてこれに注意しようとしたとしてもこれを非難することはできない。また「われ外に出れ」といったことも、既に上杉が「ちょっと来い」といった仲の言葉に反発して迫って来て、押し合いになった後であるから、上杉がけんか闘争の態度に出ていることは明らかであり、公務遂行の場である調理室内でけんかをするのは相当でないので、外に出れといったことは何ら非難すべきことではない。本件は、事の経緯から判断して、上杉の激し易い特殊な性格から、通常人ならとりたてて問題にならないさ細な事を契機として激情を爆発させたものとみるべきであり、仲の言動をこれら事件の経緯から切り離して非難するのは失当である。殊に仲は上杉の接近に対し、両手を上げ、ひじで押し返しているのであるから、仲は上杉の包丁による犯行など思いもかけなかったものと推認しうるのである。仲がこのように正に気違いに刃物という俗げんのような上杉の危険を予期していなかったからといって、仲に過失があったものと認めることはできない。そして、他に仲の過失を認めるに足りる適当な証拠はない。

以上の次第で、被告の過失相殺の主張は失当である。

五  損害

1  仲が昭和四四年三月二五日自衛隊に入隊したことは前記のとおり当事者間に争いがなく、隊員の任期が三年であることは自衛隊法三六条によって明らかである。したがって、同人は、同四七年三月二四日にその任期が満了する予定であったことが明白である。そして、同人が昭和二六年三月一〇日生れであることは当事者間に争いがなく、前記認定事実から判断すれば、同人は本件事故まで健康であったから、もし本件事故により死亡しなければ、右任期満了後六七歳まで四六年間平均して毎年少なくとも一般男子労働者の平均賃金相当額の収入を得るものと推認しうる。そして、昭和四九年度の賃金センサスによれば、全国男子労働者の平均給与額は、昭和四九年度において年額二〇四万六、七〇〇円であるので、これから五〇パーセントの生活費を控除し、右期間の逸失利益を、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して事故時の価額を算出すれば、二四〇八万三二一一円(円未満切捨て)となる。なお、昭和四七、八年度の賃金センサスによれば、全国男子労働者の平均給与額は同四九年度のそれより低額であるが、近時の賃金上昇率を考慮すれば、四七、八年度を含む仲の逸失利益の計算に当って、前記賃金センサスによるのが相当である。

204万6,700円÷2×23.5337(46年のホフマン係数)=2,408万3,211円(円以下切捨)

2  原告らが仲の父母であって各二分の一の割合で仲の権利を相続したことは当事者間に争いがないので、原告らは仲の死亡による前記逸失利益の二分の一の一二〇四万一六〇五円(円以下切捨て)の損害賠償請求権を相続により取得したことになる。

3  慰藉料  各二四三万円

原告ら夫婦が最愛の息子を失った精神的苦痛は推測して余りあるものがあり、本件諸般の事情を考慮すれば、その慰藉料は各三〇〇万円と認めるのが相当である。そして、原告らが上杉の父から慰藉料として金一一五万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、原告らの右慰藉料から右弁済金の半額をそれぞれ控除すれば、その残額は各二四三万円となる。

4  弁護士費用  各一〇〇万円

本件諸般の事情を考慮すれば、前記不法行為による損害としての弁護士費用は、原告ら各一〇〇万円と認めるのが相当である。

よって、原告らの被告に対する右損害金のうち金一一三五万七七二三円とこれに対する前記不法行為の日である昭和四六年一一月一日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴各請求は理由があるので全部正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないのでこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官 若林昌俊)

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